z.com

男と女とiPhoneと法律~iPhoneの浮気/不倫チェックはどこから犯罪?(執筆:@tokikawase)



iPhoneには、通話やLINE、メールの履歴や写真、GPS情報などなど、浮気や不倫の証拠がギッシリ詰まっている。恋人や結婚相手のiPhoneから浮気の証拠を掴もうとした場合、どこまでが合法なのだろうか。浮気をしている側から見れば、どこから先は「犯罪だ!」と言えるのだろうか。
iPhoneを使った浮気証拠の収集テクやそれらの合法性について検討していこう。

執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info

そもそも「犯罪」とは?

法律の世界では、刑事の問題と民事の問題は、とりあえず別だ。
警察に捜査されて逮捕されて裁判にかけられ、検察官と「有罪か無罪か」を争い、最悪の場合には刑務所に送られる……というのが「刑事」の問題であり、これが「犯罪」。そして、相手(恋人など)が訴えてきた場合に裁判上で相手と争い、負けたら賠償金を払わないといけない、というのが「民事」の問題。
この記事では主に刑事について考え、民事の問題は最後にまとめて考える。

iPhoneを勝手に操作して中身を見るのは合法?

相手が置きっ放しにしているiPhoneを操作し、中のメールや写真を見ることは、犯罪ではない。
唯一問題になるとすれば、「メールを見る」のは刑法の「信書開封罪」という犯罪なのではないか?ということだが、これは「封をしてある」「文書(信書)」が対象。一言で言えば、ネット時代以前に作られた法律なので、メールなどをカバーしていないのだ。
「いや、封をしてある文書を勝手に見られたくないのと同様、メールだって見られたくないよ!」という反論はあり得るし、今後法律改正が行われることはあり得るが、少なくとも現行法には、こうした行為を処罰する規定はない。

iPhoneのロックを解除するのも合法?

では、iPhoneに画面ロックが設定されていた場合はどうだろうか。パスワードが誕生日だったりすれば、簡単に破れるが、これは不正アクセス防止法の「不正アクセス」なのだろうか。
結論としては、これは「不正アクセス」にはならない。不正アクセス防止法は、ネットワーク経由のアクセスでなければ「不正アクセス」にならない、としているからだ。iPhoneを直接操作して中のデータを覗く限り、「不正アクセス」は成立しないのだ。
だから、アプリ起動のロックも同様だ。解除しても「不正アクセス」にはならない。

iPhoneを勝手に操作してメール送受信等をすると「不正アクセス」

とはいえ、「犯罪にならない」のは、iPhoneのロックを解除してアプリを起動したり、既に受信されているメールを開いたりするところまでだ。メールを受信しに行ったりすると、相手のIDやパスワードでメールサーバーにログインしたことになるから、「不正アクセス」になる。
……では、iPhoneを操作している間に、勝手にメールアプリなどの自動巡回が行われた場合はどうだろうか。理論的に面白い問題だけど、結論としては、不正アクセスにはならないだろう。「そのアクセスを『誰が』行ったのか」の問題であり、少なくとも原則的には「自動巡回を設定した人(=iPhoneの持ち主)が行った」と考えられるからだ。

LINEを起動する前には「機内モード」にすべき?

この問題を進めていくと

・勝手にiPhoneを弄って、LINEなどを起動し、既にiPhone内に保存されているトークなどを読む
・LINEなどを起動する際に、そのアプリによって自動的にログイン認証が行われる

この二つは別の問題だ、ということになる。そして、前者は犯罪でないが、後者は不正アクセスだ、ということになる。ならば、LINEなどの起動前にiPhoneを「機内モード」に変更し、オフライン状態でLINEを起動すれば良い、ということだ。

そもそもプライバシーの侵害じゃないの!?

……と、ここまでを読んできて、疑問を持った人もいるはず。「不正アクセス」とか「ウイルス供用」とかいう以前に、勝手に他人のiPhoneを見ること自体、プライバシーの侵害じゃないの!?という疑問だ。
しかし、プライバシーの侵害を、一般的に犯罪とする規定はない。プライバシー侵害は、それが同時に「不正アクセス」や「ウイルス供用」などに該当しない限り、犯罪ではないのだ。

プライバシー侵害は慰謝料を取られる

とはいえ、他人のプライバシーを侵害すると、精神的損害として慰謝料を取られることはあり得る。これが「民事」の問題であり、「犯罪ではないが、相手に訴えられると慰謝料を払う羽目になるかも」という問題だ。
しかし、二つのことを考える必要がある。
まず、相手のプライベートに関わる情報を覗いたとしても、常に「違法なプライバシー侵害」となって慰謝料を取られるわけではない。よく言われるのは、夫婦間ではそもそも期待されるプライバシーの程度が低い、という話だ。

しかし不倫の慰謝料より遙かに安い

次に、慰謝料を取られるとしても、それは不倫の慰謝料より遙かに安い、ということ。三つの「ケース」を例として考えよう。

ケース1:iPhoneを勝手に調べず、不倫を発見できなかった
→ 請求できる慰謝料0円
ケース2:iPhoneを勝手に調べたから慰謝料を取られるが、不倫を発見できた
→ 請求される慰謝料10万円、請求できる慰謝料200万円(差し引き190万円プラス)
ケース3:iPhoneを勝手に調べず、しかし不倫は発見できた
→ 請求できる慰謝料200万円

不倫された側からすれば、ケース1よりケース2の方が「得」だ、ということになる。
不倫した側からすれば、ケース3に比べればケース2の方が、トータルの差し引きで5%はマシだが、「たかだか5%」とも言える。

卑怯な手段で見付けた証拠を使うな!

iPhoneを調べられて不倫の証拠を掴まれた人が本当に言いたいことは、「そういう卑怯な手段で証拠が出たとしても、それは証拠として認められない!」ということだろう。
この主張は、法律的に言うと、いわゆる違法収集証拠の問題、ということになる。
ただ、法律的に言えば、違法に収集された証拠であっても、常に証拠として使えないわけではない。「著しく反社会的」な方法による場合のみ証拠として使えない、といった考え方が一般的だからだ。実際に、夫婦共有のPCを勝手に使って閲覧したメールを証拠として認めた裁判などがある。
不倫した側から見れば、「iPhoneはPCよりもプライベートだから、勝手に見るのは反社会的だよ!」「メールを見るより、アプリを勝手にインストールする方が悪質で反社会的だよ!」などと言うべき、ということになる。

法務博士 河瀬 季
東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年から「tokix」名義で、雑誌「ネットランナー」「PC Japan」への寄稿、書籍「iPod for コレクターズ」の全編執筆など、多数の雑誌・書籍における執筆活動を行う。2009年に東京大学の法科大学院(ロースクール)に進学し、2013年に司法試験に合格。
 

投稿日時2013年09月03日18時00分 | カテゴリー: チップス | キーワード:
このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

最新記事

▲TOP