【特別寄稿】「Google Glass」と「肖像権」~目で見ている物を撮影しただけで違法なのか【法務博士 河瀬 季(@tokikawase)】
2014年に本格的に流行りそうな、ウェアラブルガジェットの代表格といえば「Google Glass」。眼鏡型のAndroidガジェットで、目で見ている物を写真撮影したりすることが可能だ。
「Google Glass」の上記機能は、しかし、いわゆる「肖像権」を侵害する違法なものではないか!?…という声もある。「Google Glass」の利用は違法なのか、「Google Glass」は規制を受け、取り締まられてしまうのか。「Google Glass」と「肖像権」を巡る問題について考えてみよう。
執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info)
そもそも「Google Glass」「肖像権」とは
リード通り、「Google Glass」は、Googleが開発する、Androidが搭載されたウェアラブルコンピュータだ。様々なアプリが動作するが、本記事では簡便のため、「写真撮影」の機能に絞って検討する。
「Google Glass」の写真撮影機能は、いわば、「動く監視カメラ」として動作する。と、一部識者は主張する(参考:Google Glassに模造刀なみの法規制を(園田寿) – 個人 – Yahoo!ニュース)。普通のカメラやスマホと異なり、「Google Glass」なら、目で見ている物をそのまま、相手に気付かれることなく撮影することができる。こうした点に関する問題意識だろう。
そして、「動く監視カメラ」の何が問題かというと、これが、いわゆる「肖像権」を侵害するものだと考えられるからだ。例えば、街中で見かけた可愛い女の子の顔を無断撮影すると、その女の子の「肖像権」の侵害だ!…というような議論だ。
公開しなくても、撮影するだけでアウト?
上のような議論に対し、直感的に違和感を感じる人もいるはず。
「肖像権の侵害!」と言われるケースの多くは、
1. 勝手に写真を撮影して
2. それをネット上などで公開した
場合だ。勝手に公開するのはマズいだろうけど、しかし、目で見ている物を撮影するだけなら、問題はないのではないだろうか。
「肖像権」とは何なのか
「肖像権」について明文で規定する法律はなく、「肖像権」の存在を認めた最高裁判決もない。唯一「肖像権」に言及したのが、「京都府学連事件」と呼ばれる最高裁判決。おおむね、以下のようなことを述べている。
1. 人には、みだりに顔等を無断撮影されない自由がある
2. 1を「肖像権」と呼ぶかはともかく
最高裁は、「公開」とは無関係に、「撮影」自体をされない権利(自由)を認めているのだ(ただし、これを「肖像権」と呼んではいない)。
「国vs個人」か「個人vs個人」か
とはいえ、京都府学連事件は、警察による個人に対する写真撮影の事件だ。そして「Google Glass」は、個人が別の個人を写真撮影する、という問題だ。
一般に、「国vs個人」の関係と、「個人vs個人」の関係は異なる。つまり、「国にみだりに顔等を無断撮影されない自由がある」としても、当然に「他人にみだりに顔等を無断撮影されない自由がある」と言えるわけではない。
では「個人vs個人」の場合はどうなのか。…というと、法律も、最高裁判決もない。まだ未解決な領域なのだ。そしておそらく、思考の道筋は、大きく二つあり得る。
道筋A:目的&手段が正当ならOK
監視カメラについて、設置の目的や手段に着目して「合法」と判断した下級審判決は存在する(「Google Glassに模造刀なみの法規制を(園田寿)」内で言及される名古屋高裁平成17年3月30日判決)。
「Google Glass」の場合、特に問題なのは「目的」だろう。つまり、例えば「可愛い女の子の写真を撮りたい」といった目的ではアウトで、「防犯」などの目的で利用しなければマズいのではないか…ということだ。
「Google Glass」を「道筋A」で考えて良いのか
しかし、道筋A的に考えると、そもそもデジカメで「渋谷の街角スナップ」などを撮影すること自体、実は違法なんじゃないか?という疑問が生まれる。「街角スナップ撮影」という目的は、果たして「防犯」などと同様に「正当」と言えるのだろうか。
実際、上で参照した記事は
公道などの公共空間では、私人による監視カメラの設置・使用は、原則禁止されるべきだと思います。ただし、自分が何度も犯罪の被害にあい(中略)場合は、例外的な事情として使用を認めてもよいと思います。
Google Glassの問題性も、この延長線上で考えるべき
Google Glassに模造刀なみの法規制を(園田寿) – 個人 – Yahoo!ニュース
と指摘する。このような「道筋A」は、「Google Glass」以前に、そもそも街角スナップのほぼ全体を「違法」と言っている、採用しがたいものなのではないか、という疑問だ。
道筋B:ドアップでなければOK
・写真に不特定多数の人が映り込むような場合はOK
・特定の人を狙って撮影する場合はNG
というような判断を行った下級審判決は存在する(一般人の肖像権侵害 ~街の人事件~|著作権 侵害・違反を考える)。これらは、「スナップ撮影も正当な目的」ということを前提にしている(従って、上で引用した記事より「正当」の捉え方が広い)か、または、道筋Aとは異なる考え方だと言えるだろう。つまり、ドアップな写真は「みだり」な顔等の撮影でNGだけど、そうでなければ「みだり」ではないからOK、というような判断だろう。
道筋C:目で見えているものを撮影するのは完全自由
もちろん、これらとは異なる「道筋」もあり得る。目で見ているのだから、それを撮影するのは完全に自由だろ、という議論だ。ただ、
・京都府学連事件や、各下級審判決と整合的ではない
・「その場で見られること」と「撮影されて後から見られること」は違うのでは
というような批判はあり得るだろう。「撮影して一人で楽しむだけなら完全自由」と言い切って良いかには疑問が残る。
「Google Glass」は取り締まられるべきか
ここまで検討してきたのは、「Google Glass」による写真撮影は違法か、である。仮に「違法になる場合がある(例えば『女の子に近づいてドアップな写真を撮ったら違法』)」としても、それは「使い方によっては違法になる」というだけの話だ。「Google Glassによる写真撮影は常に違法」ということではない。そして、「Google Glassを付けて歩いたらダメ」「Google Glassは発売禁止」ということでもない。
さて、では「Google Glass」は規制を受けるべきか…というのは、「この先」の問題だ。
記事中の写真について
photo credit: Thomas Hawk via photopin cc
photo credit: lestaylorphoto via photopin cc
参考
投稿日時2014年02月01日12時00分 | カテゴリー: ニュース | キーワード:法律, 特別寄稿
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